特定地域づくり事業協同組合とは|マルチワークの仕組みと、働く側から見た制約

特定地域づくり事業協同組合は、地域の事業者が組合をつくって職員を無期雇用し、季節ごとに複数の職場へ派遣する仕組みです。総務省の資料(令和8年10月1日時点で150組合)で、雇われ方、給与の例、派遣先の範囲や派遣できない業務などの制約を確かめました。
特定地域づくり事業協同組合は、人口が急に減っている地域で、地域の事業者が集まって事業協同組合をつくり、組合が職員を無期雇用して、季節や曜日ごとに複数の事業者へ派遣する仕組みです。総務省のガイドラインは、こうして複数の事業者に派遣される働き方を「マルチワーカー」と書いています。ここでは、総務省の制度説明資料・Q&A・ガイドライン(いずれも令和8年3月)と、認定一覧(令和8年10月1日時点)で確かめます。
田舎の仕事の全体像は田舎にはどんな仕事があるのかにまとめています。
なぜこの制度があるのか
総務省は、人口が急に減っている地域では、事業者ごとに見ると年間を通じた仕事がなく、安定した雇用や一定の給与水準を確保できないことが、人口流出やUIJターンの妨げになっている、と説明しています。
そこで、地域の仕事を組み合わせて年間を通じた仕事をつくり、組合が職員を雇って事業者に派遣する、というのがこの制度です。総務省の資料には、次のような組み合わせの例が載っています。
- 4月は農業、5〜10月は飲食業、11〜3月は酒造業
- 午前は介護事業やこども園、午後は小売業
仕組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象の地域 | 人口規模や人口密度、事業所数などに照らして、人材確保に特に支援が必要な地区として都道府県知事が判断する。過疎地域に限られない |
| 認定 | 事業協同組合の申請にもとづいて都道府県知事が認定する。10年ごとの更新制 |
| 雇い方 | 組合が職員を無期雇用し、組合員である事業者に派遣する。届出で派遣事業ができるのは無期雇用の職員に限られる |
| 組合員 | 4者以上の事業者。個人経営の農家も組合員になれる。市町村は組合員になれない |
| 運営費 | 組合の運営費の2分の1の範囲で公費の支援がある(国が2分の1、市町村が2分の1)。残りは派遣先からの利用料金 |
総務省によると、令和8年10月1日時点で150組合(153市町村)が認定を受けています(交付金の交付決定ベース)。一覧のうち認定がいちばん早いのは、令和2年12月4日の海士町複業協同組合(島根県)です。
雇われ方と待遇
組合に無期雇用される
職員は組合に期間の定めのない雇用で雇われ、組合から給与を受け取ります。労働者派遣法は日々または30日以内の有期雇用の人の派遣を禁じていますが、組合の職員は無期雇用なので、この決まりは当てはまらない、と総務省のQ&Aは説明しています。
給与と保険は知事が認定のときに確かめる
総務省のガイドラインは、組合を認定するときに都道府県知事が確かめることとして、次を挙げています。
- 派遣職員の給与が、地区内のほかの事業者の正規職員の給与などの水準を踏まえて、一定の水準になっているか
- 社会保険・労働保険に入っているか
- 教育訓練や職員相談の体制があるか
ガイドラインが引いている国会の附帯決議は、組合は月給制を基本とするなど、職員の処遇が安定したものになるよう努めること、としています。教育訓練を受けた時間は、労働時間として扱って賃金を払うのが原則です。
社会保険の考え方は地域おこし協力隊の社会保険と確定申告でも扱っています。
給与の例
総務省の制度説明資料(令和8年3月)に載っている2つの組合の例です。給与は組合ごとに違うので、応募するときは各組合の募集要項で確かめてください。
| 項目 | おぐにマルチワーク事業協同組合(山形県小国町) | 事業協同組合かわかみワーク(奈良県川上村) |
|---|---|---|
| 認定 | 令和3年11月11日 | 令和3年2月26日 |
| 派遣職員の給与 | 月収18万円 | 月収18万円 |
| 派遣先が払う利用料金 | 1時間1,150円(税込) | 1時間1,000円(税込) |
| 主な派遣先 | 農業、宿泊業、飲食店、娯楽業、飲料製造業など | 飲食店、金属加工、小売業など |
小国町の組合の資料には、1人の職員が1年のうちに、農業(田植え)、温泉の宿泊施設、農業(稲刈り)、スキー場と働く場所を変える例が載っています。これまでに採用した9名は、20代が6名、30代が3名です。
川上村の組合は、これまでに13名を雇い、9名が退職、4名が在職しています。5名は派遣先の事業者に直接雇われました。
誰が働けるのか
総務省のQ&Aによると、移住してきた人だけでなく、地区内に住んでいる人、地区外から通う人、高齢の人、外国人も組合の職員になれます。外国人は在留資格による制限があります。
ガイドラインは、職員の例として次を挙げています。
- 地方への移住を希望する都市部在住の若者
- 地域おこし協力隊として活躍し、任期を終えた若者
- 組合の地区内に住んでいる若者
あわせて、国会の決議を踏まえ、組合はできる限り地区の外、特にほかの都道府県から人を雇うよう努める必要がある、としています。
協力隊の任期を終えたあとの道は地域おこし協力隊の任期後にまとめました。
働く側から見た制約
制度の決まりのうち、働く人の仕事の中身に関わるものを並べます。
派遣先は組合がある市町村の中に限られる
組合が届出で行う派遣は、組合の地区が属する市町村の区域内の事業所に限られます(法第19条)。同じ市町村でも、知事が派遣先の地域に条件を付けることがあります。ただし、運送やコミュニティバスの運転のように、事業所が区域内にあれば、走るルートの一部が市町村の外に出ることはかまいません。
派遣できない業務がある
労働者派遣法が派遣を禁じている業務には、組合からも派遣できません。
- 港湾運送
- 建設(林業の地ごしらえ・植栽を含む。雪かきや災害時の土砂の撤去のように、直接建設作業に当たらないものは除く)
- 警備
- 病院などでの医療関連の業務(へき地での看護師などの業務といった例外がある)
建設業には、派遣ではなく「在籍型出向」という形で従事できます。
1つの事業者に偏らない
組合への国の交付金では、職員が1つの事業者で働く時間は総労働時間の8割以内とされています。8割を超える職員の人件費は、全額が交付金の対象外です。制度は、複数の事業者で働くことを前提にしています。
組合員以外への派遣には上限がある
組合は本来、組合員のための事業なので、組合員以外への派遣は組合員への派遣の量の100分の20までです。令和7年の法改正で、市町村への派遣に限り100分の50まで広がりました(令和7年7月1日施行)。総務省は、スキー場のような市町村の直営施設やイベントの時期の人手不足と、農閑期などに派遣先を確保したい組合の事情が合うと説明しています。
派遣先が無い時期の扱い
派遣先を確保できずに休業させた場合の職員の人件費も、交付金の対象になります。ただし、職員の稼働率が8割未満になると交付の上限が下がるので、組合は派遣先の確保に努める必要がある、と総務省は説明しています。
副業はできるが、主は組合の仕事
職員が余暇などにほかの事業者と兼業することはできます。ただし、主として組合の業務に従事する必要があります。協力隊の副業の決まりは地域おこし協力隊の副業にまとめました。
組合の探し方
総務省は、認定を受けた組合の一覧を、都道府県・市町村・組合の名称・認定年月日・主な派遣先の業種つきで公表しています。名前には「マルチワーク」「複業協同組合」「地域づくり事業協同組合」などがよく使われています。
給与や募集の内容は組合ごとに違います。移住先の候補が決まっているなら、その市町村に組合があるかを一覧で見てから、組合の募集を探してください。
応募する前に確かめること
- 候補の市町村に組合があるか。総務省の認定一覧で探す
- 主な派遣先の業種。一覧に載っている。季節ごとにどこで働くかは組合と相談して決まる
- 給与と、月給制かどうか。例に挙げた2組合は月収18万円だが、組合ごとに違う
- 社会保険・労働保険。認定のときに知事が確かめる項目になっている
- 派遣先の範囲。組合の地区がある市町村の中に限られる
- 兼業の扱い。できるが、主は組合の仕事
本記事は、総務省の特定地域づくり事業協同組合制度の公表資料(制度説明資料・Q&A・ガイドラインは令和8年3月、認定一覧は令和8年10月1日時点)をもとにしています(2026年10月12日確認)。給与や派遣先は組合ごとに違い、変わることがあります。最新の情報は各組合と市町村の案内で確かめてください。
よくある質問
Q.特定地域づくり事業協同組合とは何ですか。
A.人口が急に減っている地域で、地域の事業者が事業協同組合をつくり、組合が職員を無期雇用して、季節などに応じて複数の事業者へ派遣する仕組みです。都道府県知事が認定し、組合の運営費の2分の1の範囲で国と市町村が支援します。
Q.特定地域づくり事業協同組合はいくつありますか。
A.総務省の認定一覧によると、令和8年10月1日時点で150組合(153市町村)です(交付金の交付決定ベース)。
Q.組合の職員の給与はいくらですか。
A.組合ごとに違います。総務省の資料(令和8年3月)に載っている、おぐにマルチワーク事業協同組合(山形県小国町)と事業協同組合かわかみワーク(奈良県川上村)は、どちらも月収18万円です。認定のときには、地区内のほかの事業者の正規職員の給与などの水準を踏まえた一定の水準か、社会保険・労働保険に入っているかを知事が確かめます。
Q.移住者でなくても組合の職員になれますか。
A.なれます。総務省のQ&Aによると、地区内に住んでいる人、地区外から通う人、高齢の人、外国人も職員になれます。外国人には在留資格による制限があります。
Q.特定地域づくり事業協同組合で働くときの制約は何ですか。
A.派遣先は組合の地区がある市町村の中の事業所に限られます。建設や警備など、労働者派遣法が派遣を禁じている業務には派遣されません(建設業は在籍型出向なら可能)。また、国の交付金では1つの事業者で働く時間は総労働時間の8割以内とされており、複数の事業者で働くことが前提です。
参考にした公式ページ
- 特定地域づくり事業協同組合制度|総務省
- 特定地域づくり事業協同組合認定一覧(R8.10.1時点)|総務省
- 特定地域づくり事業協同組合制度の概要について(令和8年3月)|総務省
- 特定地域づくり事業協同組合制度に係るQ&A(R8年3月)|総務省
- 地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律ガイドライン(令和8年3月改定)|総務省
情報は変わることがあります。最新の内容は各公式ページでご確認ください。





